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田舎の漁港のように錆びれ切った港には誰もいなかった。
港町は半年前に潰れてなくなった。
「国破れても山河あり」とはよく言ったものである。
人間がいなくなっても、自然は変わることなく繁っていた。
ただ一つ人間の遺産があるとすれば、それはアスファルトで固められた国道へ続く一本道だけだった。
その一本道は大きな山に続いていてその先は見えなかった。
「じゃあここでお別れだな」
ウォンが言った。
「私たちは実家に帰るから・・・その・・・」
「言わなくていい」
「ウォンはこれからどうするんだい?」
若い男が聞いた。
女はそれを制止するように前に出たが、ウォンは殴ったりしなかった。
それどころか誇らしげに、
「俺は韓国組の代表者とピョンヤンへ行って任務の報告をする。妻がピョンヤンにいるんでな、さぞ驚くだろう」
と言った。
ウォンはさらに言葉を重ねようとしたが、向こうから来る車のエンジン音に掻き消された。
車は三台きて一種一様だった。
一台はワゴン車で、一台は大型トラックで後ろの荷台は見えなかった。
もう一台は高級車で正装した男が乗っていた。
車から全員が降りてきた。数は六人いた。
「ご苦労様、日本組」
正装の男が皮肉に言った。そして全員の目は袋へといった。
「何故二つなんだ?」
トラックから降りてきた繋ぎ姿の男が言った。
「襲撃の際にターゲットは二人でいたのよ」
女が言った。
「黙れ!お前の意見など聞いていない」
「いいじゃない、政府にはお金があるんだから、一人や二人増えたって。それより私たちはいつ報酬を貰えるのよ!」
そう言って男に飛び掛かろうとした時、女は地面に倒れた。
銃声音と共に。
正装した男は銃を胸元にしまった。
「うるさい女だ・・・後で海にでも捨てておけ」
そこからの五、六分は三チームに別れて行動した。
日本組は仲間の女の死体を海に捨てる作業。
韓国組は二つの袋をトラックに積み、袋から出す作業。
ウォンと繋ぎの男と正装の男は今後について話していた。
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