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車の荷台には京美がいた。
「京美!よかった・・・無事で・・・」
袋は取られたものの、手を後ろに縛られていたので身動きが取れなかった。
「大成なの?」
真っ暗で何も見えないので京美は聞いた。
車は走り出した。
「ここはどこ?」
大成は聞いた。
「わからない。気絶してから船に乗せられたみたいだから」
「船!」
そう言った時の振動で殴られた箇所を刺激した。
「痛っ!」
「どうしたの?」
「ちょっと殴られただけさ」
「私も殴られた」
「何だって!?」
大成は激怒した。
「僕たちを誘拐した人間は丁重には扱わないつもりだな。女を殴るなんて・・・」
「ううん、たいしたことないから、それより確かに何を考えているかわからないから、慎重に行動した方がいいわね」
「ああ・・・」
しばらくは沈黙が続いた。聞こえるのは凸凹道を走っているのだと思われる、タイヤの音だけだった。
「誘拐犯は韓国人よ!」
いきなり京美が言ったので大成は驚いた。
「なんでそんなことがわかるんだ?」
「船で知ったの、韓国語は通じたし話してたわ」
それを聞いてから大成はイモムシのようにトラックの荷台をはいずり回った。
「何をしてるの?」
「こいつらから逃げ出すにしてもまずは相手を知らなきゃ。だから車内をチェックして何か手掛かりを探さなきゃ」
その行為は数分続いた。
京美は暗闇の中でニッコリと笑った。
目には見えていないが、おそらく今の大成は不格好だろう。
しかし目標のために小さなことから始める、そんなところが京美が大成に惚れた一つの理由だった。
そしてそれは今でも変わっていない。
大成は這い続けた。
途中瓶のかけらに当たることはあるが大きな手掛かりはまだない。
しかしやがて何か柔らかいものに頭が当たる。
生暖かくて少しビビってしまった。
上から見下ろしてみると大成は悲鳴をあげそうになった。
「京美」
声を殺して言った。
「何?」
「ちょっと来て、誰かがいる」
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