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バンッ!!
音は響き渚は驚き目を瞑る。
“すみません…そういうつもりじゃなくて愁さんに守って貰えて嬉しかったです”
声で伝えたい思いすら届かないのかと思うと悔しくて自分が嫌になる。ただただ強く指を振り何度も何度も手話をする。
その手を愁は優しく握り
『分かったから止めてくれ…』
そういうと渚は力が抜け愁の手を頼りなさげな手で握り返す。
『………何?』
一瞬驚いたがまたいつものようにそっけない素振りで渚に問う。
ずっと目を見て手話をせずに口を動かす。
“…居て…”
愁は目を疑った。まさかそんなはずはない。何かの間違いだと。
『曖昧だからもう一度手話つけて』
そうすると渚は握ってた手と逆の手で震えながらゆっくりと渚に伝える。
『…』
渚の伝えたことに対して愁は言葉が出なかった。渚は返事を待った。愁に傍に居てと伝えたのである。
(夢見てるのか…いやそんな馬鹿なことはない)
『嫌になったらすぐに離れてよ』
“離れません”
(ストレートに言えるものなのかそんなこと…。聞いた僕はなんか恥ずかしいのだが…それにしても言い切るなんて成長したよね)
そして2人は静かな夜で他愛もない話をしながら応接室で過ごした。
静かなのは少し寂しく。しかし必死に伝える君の姿は凛々しくて楽しませてくれる。
君の声が聞きたい。たくさん話して最後には僕の名前を呼ぶ。
そんな儚き願いは叶わなくとも、渚が笑って、しかも僕の傍にいてくれるならもう充分だ。
もう求めない。
初めて君と出会い僕の名を呼んだあの声は僕の記憶の底に。
fin
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