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彼の言葉に、少女は微笑む。立ち上がり、少女の顔を見る。汗一つ変えずに、綺麗な顔立ちをしている。
「君……名前は?」
少女が尋ねる。少年は己が出来るだけの、最高の笑顔で返そうと心掛けた。
過去の痛みが、一時的に和らぐ。
「リコル。僕の名前はリコル、です。それで、貴女は……?」
吐き出しかけたフルネーム。しかし、そこは何とか呑み込み、少年は「リコル」と名乗った。
「私はシナ。シナ=ウィザルド。よろしくねっ」
最早ノックダウン寸前。この少女……いや、シナの笑顔には殺傷性が秘められていると、リコルは痛感した。
「何があったかは知らないけど、此処は危ないよ? リコルくん、何で此処にいたの……?」
シナは知らない。だからこそ、その質問はリコルの心を容赦なく抉った。
しかし、リコルはそれを悟られないように、必死で表情を繕う。
しかし、声はでなかった。その場をはぐらかす言葉は、見つからなかったのだ。
何も言わないリコルを見て、何を思ったのだろうか。シナは、繋がった手にギュッと力を入れる。
そして
「……人には、言えない事?」
傷つけないように、尋ねた。
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