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リコルが勘弁したように座り込むのを、シナはにこにこと眺めていた。
到底逃げれそうにはない。その事を悟ったリコルは、差し出されたお茶に口を近付けるのだった。
「……あ、美味しい」
「そう? ありがとーっ」
──……。
「……」
「……」
長い永い沈黙が部屋を包み、漂う。リコルからしてみれば、この沈黙をさっさと破りたい所なのだが、生憎、その話題はない。
些細な話題すら浮かばないある意味質素といえる人生を、やはり彼は呪った。
「あのさっ、リコルくんは……なんで森にいたの?」
それを切り裂いたのは、シナの声。それはリコルの心を強く揺るがし、不安定なものにさせた。
ごくり。呑み込んだ唾が、やけにその存在を巨像の如く示す。
やはり──言ってしまうべきなのか。己が今に至るその経緯を全て、それこそ、何もかもを打ち明けてしまうべきなのか。
リコルは、悩んだ。
しかし、すぐに決める。
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