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此処に存在していけてるのも、全ては、目の前で座るシナのお陰。
「……話せばながいんですけどね」
重い口をうっすらと開き、物語の始まりを発する。閉まりかけていた記憶の扉が、軋みながら開かれていった──。
★ ★ ★
この国には魔法に長けた優秀な一族が、ごく少数だが、いた。
──『ウィザルダスト』
古代語の意で魔法使いを指すこの名前。その一族に生まれた者は、優秀である事が必然にして、絶対。
──しかし
彼が、生まれた。
人々が作り上げた歴史の長さの匙で見れば、それは太古からと表すのに相応しい長さなのだろう。
それを覆したのが、彼。
──…………。
──……。
それは、今から十年程昔に遡らなければならない。あまりにも悲しい出来事の幕開けを知るためには。
ある日、彼は産まれた。春の息吹が桃色の花びらを散らす季節の事だ。
この日、彼の誕生を誰よりも望んだ者がいた。たったこの瞬間より、父親となった、『オルグ=ウィザルダスト』だ。
「お、オルグ様っ!」
大きな屋敷に住み込み、主人に仕えるメイド達の内の一人が、その知らせを運んできた。
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