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前触れもなしに扉を開いたそのメイドに、オルグは視線を向けた。
「なんのようだ?」
分厚い本を膝元に置いて。荒れていた呼吸が徐々に納まってきたのか、そのメイドは背筋をぴんと伸ばし、言葉を放つ。
「遂に、産まれました。次期頭主となる息子さんが」
まさにその刹那──オルグは椅子を勢いよく倒し、立ち上がる。そして、メイドに詰め寄った。
「それは本当か!」
その剣幕に一瞬たじろいだメイドだったが、すぐに小さく頷き、それに応じた。
「そうかそうか……。なら、今から見に行かねば!」
最早普段の彼とは、取り巻く雰囲気から何までが全て違っている。
爛々と踊る光をその眼に宿しながら、彼は部屋から飛び出し、ただひたすらに長い廊下を真っすぐに走っていった。
「……へ、部屋……は?」
独り、メイドが呟く。
巨大で豪勢なこの屋敷。数えきれない程の部屋。何も考えずに飛び出したオルグは、数分後──
「……そういえば、部屋は?」
孤軍奮闘する羽目になったのだった。
後から駆け付けてきたメイドのお陰で、なんとか部屋の場所がわかったオルグ。
言われた部屋の扉を開く。
「あら、オルグ。少し来るのが遅かったわね」
「ラム! 子供はどこだ!?」
少しは妻・ラムの身を案じるべきであるのかもしれないが、今はそれどころではなかった。
慌てて駆け寄る。
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