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なんで、此処にいるのか……彼には、わからない。
湿った風が不気味に吹き抜ける闇夜の森にて、彼はドラゴンと呼ばれる、高級魔族に遭遇していた。
「グルルル……ゥ……」
ドラゴンと言っても沢山の──それこそ、数えきれない程の種類がある。
目の前で、食の欲に餓えたこのドラゴンは、『クロノスドラゴン』。
現存するドラゴンの中で、最も巨大で危険とされるドラゴン。
「……は……ぁ……」
彼は、恐怖──そして度重なるストレスに圧倒的な威圧感などから、身体が震え、喉が締め付けられたかのような錯覚に陥っている。
彼は、今、様々な辛く厳しい出来事を乗り越え、此処にいる。もし、彼の境遇を綴った本があるのならば、皆が同情するに違いない。
──そう。
それ程までに。
彼は理不尽な人生を、歩んできていたのだ。十二歳、何も知らない少年は、抜け出すこと出来ない『死境の森』にいた。
(あぁ……僕は……こんな所で死ぬのかな……。お父さんに捨てられて、みんなにきらわれて……)
彼自身も気付かない、目尻に溜まった綺麗な雫。
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