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ホロリと零れ、月光に煌めく刹那──クロノスドラゴンは、長い首を動かし、天を仰ぐ。
すぅぅぅ、と深呼吸をするような音。それは正しく、『火炎』を放つ予備動作。漆黒の龍によって、彼の人生は閉じられるのか。
──すとん。
その恐怖。
そして彼は座り込む。
己の未来はもうない。
そう、絶望視して。
捨てられさえしなければ、こんな事にはならなかったのかな……。
押し寄せるのは虚無感。本当に、罪の無い人が死ぬ事があるのだ。そう、実感した。
あまりにも不幸で、人としての扱いをされてこなかった彼。
しかし。
せめて。
せめて最後くらい、抗ってやろう。彼は、放たれた灼熱の炎から目を逸らさない。
それは、己の最後をしっかりと感じ──見届けようとする、彼なりの悪あがき。
しかし、だ。目の前に現れた影により、それすらも妨げられてしまう。
そして、二人は出会った。
──……。
座り込む少年と、クロノスドラゴンの間に、一つの人影が入る。その刹那、少年は頬に火傷しそうなほど熱い風を感じた。
火炎が放たれたのだろう。なのに、少年は此処に居る。確かにその生命の灯火は消えてはいない。
確実に。
少年の目の前で少年を守ろうとするこの人影こそが、その所為なのだろう。
「君は……だれ……?」
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