ノストラダムス

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   崩れ落ちた建物。  激しく燃え上がる炎。  辺りを霞ませる煙。  ひび割れた地面。  漂う異臭。  逃げ場なんてないのに、足掻くように逃げる人。赤い液体を己から垂れ流し、動かない人だった物体。それを激しく揺さぶりながら泣き叫ぶ人。  そして、  空から降り落ちてくる巨大な石……いや、隕石の数々。    つい数十分前までは、こんな筈じゃなかった。建物は綺麗にそびえ立ち、きちんと鋪装された道を人々は思い思いの表情を浮かべて、歩いたり走ったりしていた。  何より空はこんなに黒くなく、清々しく晴れ渡る青空だったのに。  1997年7月の猛暑日。たった数十分で、日常が地獄へと変わり果てた。  絶望。今の私に一番合った言葉。もう、助かりはしないだろう。仮に生き延びたとしても、こんなに破壊された世界では生きていける訳がない。  逃げ惑う訳でもなく、泣き叫ぶ訳でもなく。  ただただ、空から降る隕石の大群を見つめ立ち尽くすだけだった。  そして、空を見上げたまま動かない私に、容赦なく降り掛かってきた隕石は――……。 「自分に当たって死ぬっていう夢だった」 「夢かよ。つーか、『ノストラダムスの予言』がそんなに怖かったのか?」 「当たり前じゃない! 毎日毎日、神様に祈ってたんだからねっ!」 「はいはい。つーか、『ノストラダムスの予言』から10年以上経ってんのに、まだビビってるんだな」 「たまたま夢見ただけって言ってるでしょっ」  恥ずかしさを紛らわせる為に、学校屋上のフェンスに持たれて座っている隣の彼を叩いた。叩かれた箇所を痛そうに擦りながら文句を言う彼を無視して、私は空を見上げる。  あまりにもリアルで怖かったが、所詮は夢。気にすることはない。あんな凄惨な状況が起こる筈がない。  そう思いながら、私は目を瞑った。 「――……? おい、空から何か降って来るぞ……?」
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