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彼は触れた。
冬に舞う雪のように真っ白といっても過言ではない、その細い腕に。
肌の白さとは裏腹に、手から柔らかく伝わるその体温を確かめるように。
強く
強く
彼は腕に触れ続けた。
「痛いよ」
病院独特の薬品の臭いが僅かにするシーツが引かれたベッドに、横になっていた彼女はそう言いつつも、表情は決して痛そうに歪めている訳ではなく、
嬉しそうで、恥ずかしそうで。
ベッドの傍らにある丸椅子に腰かける彼はその言葉を聞きながらも、決して手を彼女の腕から離そうとしなかった。
「早く……治せよ」
彼は呟きながら、彼女の腕から手へと触れる箇所を変えた。そして、彼女の手を己のそれで握る。優しく、強く。
「……うん」
そう答えながら、彼女は彼の手を握り返した。病気で力の入らない手に、一生懸命、力を込めて。
知っている。彼女は彼が泣いていることを。
知っている。彼は彼女が泣いていることを。
知っている。二人は病気が治らないことを。
だから確かめる。
二人は手の温もりを。
彼女が生きている。
彼が傍にいる。
それを感じる為に。
(もしこの温もりが消えた時)
(俺は君を追いかけよう)
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