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「何で起こしてくんないのさ馬鹿兄貴!!」
「知らねー。俺様起こしたぞっと。遅刻すんなよ」
結局、美鈴は遅刻ギリギリまで熟睡していた。確かに俺様は起こしたぞ。
ぎゃあぎゃあ喚き散らす怪獣を放置して、我が家を後にする。
外は新たなる息吹きが感じられるような景色。俺様達のアパートの前には毎年春になると満開になる桜の木が威風堂々と立っている。
しかし悲しいことに、今年の桜の木は一本しか咲いていない。咲いていないのではなく、桜の木自体が一本しかないのだ。
時間は遅刻ギリギリなのだが、俺様は何故だか桜の木から目が離せなくなった。
風が吹く度に舞う桜の花びらは、今の俺様の心を表しているかのようにひらひらと地面へと舞い落ちる。
自らの命を削って、世界を色付ける桜に心打たれ、俺様は只々立ちすくんでしまう。
世界が一瞬だけ止まり、新しい風が俺様の背中を押した気がした―…。
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