1章

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 私はこの春、野球の名門高校に入学した。  甲子園に行きたくて、マネージャーになった。  入学してから三ヵ月、二時間かかる登校にも少し慣れてきて、他のマネや部員とも大分親しくなってきたと思う。 「栢山さん」 「はい?」  呼ばれて振り向くと、同じクラスの野球部員が立っていた。 「ぁ、斎藤君、……手っ、怪我っ!?」  斎藤くんの、左掌から手首にかけて赤いものが滲んでいるのを見て、私はうわずった声を出した。 「軽く擦り剥いただけ。一応消毒したいんだけど、救急箱ある?」 「あ、うん。ちょっと待ってて」  言って、私は部室まで駆け足で向かった。確か、ロッカーの上に救急箱があると入部時に先輩に教えてもらった。  部室を開け、ロッカーの上を見上げると四角い木箱があった。手をのばして取ろうとしたが、落としそうになってしまった。当たったら絶対に痛い。なので踏み台を探していると、斎藤君が部室に入ってきた。
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