雨・三編み・文庫本

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 ところがダイヤ表に書いてある時間を十分以上過ぎても、一向にバスが来る気配がない。 「…」  さすがにこれ以上は、この沈黙に堪えられなくなってきた。停留所のプラスチックの屋根を打つ雨の音が鼓膜を叩く。  何か話題を探そうと少女を横目でチラチラと観察する。その姿は端から見ればさぞ挙動不審だっただろう。  話題も思い付かないままそんな事を考えていると、不意に少女が口を開いた。 「バス…、遅いですね」 「えっ…、ああ、そうだね、どうしちゃったんだろうね?」  はははっ、と凝り固まった下手な愛想笑いが漏れる。その時、少女の腕に抱えられた一冊の文庫本が目に付いた。 「あっ、その本知ってる」 「えっ?」  唐突な話題に何の事か分からなかったようで、少女が首を傾げる。長い三編みがそっと揺れた。 「君が腕に抱えてる本の事だよ。確かその物語の冒頭は、見ず知らずの男女が、突然の大雨から逃げ込んだバス停で出会うんだよね。そして少女が持っていた一冊の本がきっかけで…って、あれ?」
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