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少女の表情がよりいっそう哀しげになった。バスや地面を叩く雨の音が、強さを増す。
「そんな…」
少女は、帰らない人を待っていると言った。帰らない人を、ただ一人でずっとずっと待っていると。
来ない人をいつまでも待つ、それは気が遠くなるような思いだろう。想像するだけで、とても哀しい気持ちが込み上げてくる。
それにここで僕らが別れたら、二度と逢えない気がした。
「それじゃあ、家に帰るのに、この傘を使ってよ」
「えっ?」
少女の表情に戸惑いの色が浮かぶ。そして首を横に振った。
「そんなの悪いです。名前も知らないのに…」
「そんな事は、問題じゃないんだ。またいつか雨の日に、僕はこの傘を返してもらいに来るから…、その時に名前も教えるからさ」
「でも…」
困ったように表情を曇らせる少女。僕はそんな少女に対して続けた。
「もう、二度と戻らない人を待たなくてもいいんだ。その傘は約束の証、僕は必ず戻ってくるから。だから、……待ってて」
少女が打たれたように顔を上げ、震える瞳から大粒の涙を零す。
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