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「彼女も辛いだろうな……訪ねて来た時は、まさか中で友達が死んでいるなんて思いもしなかったはずだ」
「はい……」
「状況から見ても、南雲圭都が起こした無理心中ってところか。激しい抵抗の後は見られないけど……怖くて動けなかったんだろう」
如月は溜め息を吐いた。
例え真実を突き止めても、失われた命は二度と取り返せない。警察は事件が起きた後に真相を解明する力はあるが、事件を予防する術は知らないのだ。起きていないことを予見するのはどんな人間にも不可能だが、実際に現場に踏み入ると、己の不甲斐なさに落ち込む。
推理が確実になるまで調査は続けるが、今回の事件は真相が一目瞭然だから、きっと他の線は浮かばない。
もう一度、重なっている遺体を見た。
無慈悲な蜘蛛と哀れな蝶々の姿が鮮明に過る。
「……彼女、相当な恐怖に追い詰められていたんだな。泣いたまま事切れている」
「よほど恐ろしい目に遭わされたんでしょう……可哀想、ですよね……」
神妙そうな面持ちの新米刑事も同意する。
そしてその隣の、不気味な表情に目を移した。
「皮肉ですよ……自分を殺した憎き男は、隣で幸せそうに笑ったまま死んでるんだから……」
君は、いつまでも……
ずっと、ずっと、俺のものだ。
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