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そんなこと言われても、初対面ですから。顔も名前も知ってるはずがありません。寧ろ貴方みたいな人が私の名前を存じていることの方が驚きです。
――――とは、まさか面と向かって言えず。
「……はい」
小さく頷き返した。下手に取り繕うより無難な言葉を選ぶ。顔を下げたまま固まった。何となく、目を合わせたくない。
「そっか……ごめん。いきなり声かけたりして」
頭上から聞こえた声には落胆が宿っていた。
謝られる理由はないのに。胸の中に罪悪感が落ちる。ますます動けなくなってしまう。
傷付いたなら早く何処かへ行ってくれればいいのに……
「じゃ、改めてはじめまして。俺は南雲圭都って言います」
「……はい?」
突拍子のない自己紹介に、一瞬戸惑ってしまう。
思いがけない展開に顔を上げると、綺麗な笑顔が私を見下ろしていた。少し爪先の長い左手が差し出される。去る気配もなく立ち止まった両足。どういうつもりなのか、彼はこれから先も私に関わろうと考えているらしい。
「えっと……南雲、さん?」
握手を渋り、先に彼に呼びかける。
「何?」
「どうして……私の名前、知ってるんですか?」
私は逸脱している才能なんて持ってない。小柄でスタイルも褒められたものではないし、顔だってファンデーションを乗せただけのほぼ素顔。特別懇意にしてもらってる教授もおらず、サークルにも入ってないから人脈も限られてる。
何処にいても周囲に埋もれて目立たない私のことなんか、何処にいても人一倍目立ちそうな彼がどうして知っているのか。
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