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行き場のない手が引っ込んだ。私の警戒心を読み取ってくれたようだ。
「どうして、か。ごもっとも。普通そう思うよね」
彼は笑みを絶やさずに、且つ平然と言い放つ。私の質問を重く捉えていない風に見えて、歯がゆい。
「でも……言って信じてくれるかな?」
「何をですか?」
私の名前を知った経緯はそこまで妙なのか。変な噂でも流れているんじゃないかと、聞くのが少し怖くなってくる。
考えるように天井を見上げた彼は、すぐにまた私に視線を戻す。
「俺、回りくどいの嫌いだから、ハッキリ言うね」
とても優しくて、好意的な眼差し。濁りがなく澄んだクリアな瞳。白い球の中に浮かぶ濃褐色。
こんなに綺麗な瞳で見つめられて嫌がる女の子なんて、いないだろうな。
だけど、私は……
「君が好きだから」
「…………は?」
顔の筋肉をゆるめ、みっともなく口をぽかんと開け、呆然とする私。
頭の中にあったものが、いきなり全部吹っ飛んだ。一気に真っ白になってしまった。いきなり迫ってきた非現実が私の思考を掻き回す。
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