3882人が本棚に入れています
本棚に追加
「……からかう?」
彼の顔が凍りつく。
じっと私の顔を凝視する。その視線に全身を捕われたような気がして気持ち悪くなった。一直線に突き刺さってくる。
先程とは種類の違った、笑み。つり上がった彼の口角。白い歯先が覗く。
目を背けたい。今すぐにでもこの部屋から、建物の中から、逃げ出したい。
でも……出来ない。
金縛りみたいに身体が硬直して、思うように動いてくれない。膝から下が震えてる。
「俺は本気だよ」
聞く側が畏縮してしまうくらい、強く真剣な語調。その言葉が真実であることを疑わせない。
彼に気圧されて何も返せない。私は跳ね除けることが出来なかった。
「だからさ……」
例えるなら、蜘蛛の巣に引っかかった蝶々。
“標的”として捕えられ、じわじわとその足が近づいてくるのを待つだけ。自分の命を喰らおうとする者の歩みを止めることも出来ず、成り行きを見守ることしか許されない。死ぬまで精神を削り取られる。
私の心境は、今まさにそんな感じだった。自分でもよく解らないのに、酷く心が怯えてる。
私の瞳に映る、腹を空かせた美しい“蜘蛛”。
私が抱いた想いはただ一つ。
「俺と付き合ってよ」
――――恐怖。
最初のコメントを投稿しよう!