~蝶々と蜘蛛~

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「……からかう?」  彼の顔が凍りつく。  じっと私の顔を凝視する。その視線に全身を捕われたような気がして気持ち悪くなった。一直線に突き刺さってくる。  先程とは種類の違った、笑み。つり上がった彼の口角。白い歯先が覗く。  目を背けたい。今すぐにでもこの部屋から、建物の中から、逃げ出したい。  でも……出来ない。  金縛りみたいに身体が硬直して、思うように動いてくれない。膝から下が震えてる。 「俺は本気だよ」  聞く側が畏縮してしまうくらい、強く真剣な語調。その言葉が真実であることを疑わせない。  彼に気圧されて何も返せない。私は跳ね除けることが出来なかった。 「だからさ……」  例えるなら、蜘蛛の巣に引っかかった蝶々。 “標的”として捕えられ、じわじわとその足が近づいてくるのを待つだけ。自分の命を喰らおうとする者の歩みを止めることも出来ず、成り行きを見守ることしか許されない。死ぬまで精神を削り取られる。  私の心境は、今まさにそんな感じだった。自分でもよく解らないのに、酷く心が怯えてる。  私の瞳に映る、腹を空かせた美しい“蜘蛛”。  私が抱いた想いはただ一つ。 「俺と付き合ってよ」       ――――恐怖。
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