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「えぇ!? それで、断っちゃったの?」
「奈々、声が大きいよ……」
透き通った青空の下。真上から差しているはずの陽の光は弱い。
昼過ぎの中庭には多くの人が行き交う。褪せかけた草葉に彩られたこの場所は、見る人全員に安らぎを与える癒しの空間。今は寒い季節だから通り過ぎていく人ばかりで、留まっているのは十人弱程度しかいないけど、暖かければ倍以上の人が集う。
木製のベンチに座った私は、親友の太刀川奈々と一緒に食後の一時を過ごしていた。
今朝の出来事を話しながら。
「何で何で? そんないい男なら、付き合っちゃえばいいのに!」
「いや、そりゃ綺麗な人だったけど……」
そう。綺麗な人ではあった。
爽やかとは言い難いけど、人を魅せる力も惹き付ける華やかさもあるし、全体的に艶っぽい色気を醸し出ていた。顔立ちも見事に整っていたし身形に清潔感もあった。気さくで人見しりしない態度。あの人は異性からモテる。それは認める。
だけど、それだけじゃ好きになる理由に欠けすぎてる。
「全然知らない人だもん。初対面で好きになるなんて有り得ないし」
「もぉ、未由ったら真面目すぎ。付き合ったら好きになっちゃうかもしれないじゃん」
付き合ったら好きになる――人の心ってそんな単純なものじゃないと思うけど。
他人事だと思って、奈々は深く考えて言ってない。考える前に口が動く癖、少しは修正してほしい。
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