序章 始まりの夜

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郊外にある廃墟の一室に彼はいた。 (…………準備は出来た………。………後は決行するだけだ………) 龍夜は机の上に並べられた道具を改めて見直す。 顔を隠す為の覆面。 人を脅す、もしくは殺す為のナイフと拳銃。 龍夜は1つ1つ、しっかりと点検しながらバッグにしまっていく。 明日の為の準備をしている彼の頭に、今日、妹の主治医とした会話がよみがえて来た。 『………残念ながら………小宵(こよい)さんの病気は現在の医学じゃ、治しようがないんです………』 「ふざけんなっ!!」 龍夜は叫んだ。 龍夜の叫びは暗い部屋の中で反響し、闇の中に吸い込まれるように消えていった。 「…………金だ………」 龍夜は呟く。 「金があればもっとでかい病院で、もっとウデのいい医者に診てもらえる………。そうすれば、小宵の病気も絶対に治る………。…………そうだ………小宵が死ぬわけがない………」 龍夜は何かに取り憑かれたかのように、ずっと同じ事を繰り返し呟いている。 荷物を全てバッグにしまい終えた時には、龍夜はすっかり落ち着きを取り戻していた。 「………明日は………俺の………俺達の人生の中で最も忘れられない1日になるだろうな………」 「ああ、そうかもな」 突然、背後から聞こえた声に龍夜は驚き、すぐさま後ろを振り返った。 青白い月明かりが差し込んでいる窓に何者かの影が見えた。 黒い影はこちらを見ている。 龍夜は声の主の居場所を確認した瞬間、素早くバッグから銃を取り出し、影に向かって発砲した。 一瞬、火花が散ったかと思うと、黒い影の頭の辺りから血が飛び散り、窓を破って外へ落ちていった。 穴の空いた窓から鉄の臭いがする風が流れ込んで来た。
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