善、悪

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まだ物心もつかない頃。当たり前に握っていた片方の手が離れた。 記憶なんてない。ただ、何か大きな物を無くした様な気はする。 大きくて、ごつごつしていたその手。それが持つ温かさは、幼かった俺を何よりも安心させていた。 そんな手と俺の小さな手は、もう一つの温かい手によって離されていった。 昔の俺にはよく分からなかった。別に今も理由が知りたい訳じゃない。 母親と父親の離婚。俺は母親に引き取られた。 いつから歯車がズレたのか? そう聞かれたなら俺は、迷わずに父親と母親が離婚した時と答える。 どう考えたって、何をしたって…… もう今の現状を変えることなんて出来ない。 これは一種の絶望だ。俺はそう思っている。
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