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夜が明け日が傾いた頃。
ひとつの部屋から悲鳴のような罵声が飛んだ。
それは小さな女郎屋全室に聞こえるくらい大きなものだった。
私が部屋へ駆けつけた頃には、仕事あがりの遊女や禿の野次馬が入口を塞ぐように集い、
女将と亭主が百合花を抑えつけているのが見えた。
そして百合花の足元には禿を抱える一葉の姿がある。
「私に恥をかかせやがって!!」
今にも飛びかかって行きそうな百合花に女将は「まぁ、まぁ」となだめた。
そして一葉に視線を送り
「今、この店で一番稼いでるのは百合花なんだ。
勝手な行動を取りたかったら百合花を越えてからにしな」
そう言い、百合花を抱えるように連れて部屋を出る。
「ほら、邪魔だよ。
アンタ達もやることをやりなさい。客はどうしたんだい?」
女将の言葉に野次馬は道をあけ、パラパラと持ち場へ戻った。
ただ黙って一葉と禿を眺めていた私に、横を通り過ぎる百合花はフンと鼻を鳴らす。
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