‥―弍ノ章―‥

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  百合花たちの足音が遠くなるのを背に、 再び視線を一室へ向ける。 一葉はたまきを腕の中から解放し微笑みかけていた。 (あぁ、恐い恐い) (アタシ等も気を付けないとね、あんな風になりたくなければ) 部屋を囲む暇な遊女たちは他人事の様に口を開き、誰ひとりとして一葉を哀れむ者など居なかった。 私は眼を細め、 一歩、 また一歩。 一葉に歩み寄った。 「姉さん、これ」 懐に手を入れ布を取り出す。 「唇(クチ)、切れてますよ」 私自身、こんな行動をとるなんて自分が一番驚いている。 此処には哀れんでもらう者はいるが、哀れむ者なんて誰ひとり居なかった。 皆、自分自身のことで精一杯だからだ。 もちろん、 私も‥その、ひとり。 一葉は驚いた顔をしながら、私の伸ばした掌から布を受け取った。 「ありがとう」と呟いて。 .
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