‥―弍ノ章―‥

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  その晩は、 ザ ァ ザ ァ。と雨が降る生憎の天気だった。 ひとり、ふたりと仕事が終わり、私はまたいつもの様に部屋の窓から外を眺める。 格子の隙間から腕を伸ばすと、大粒の滴が ボタ。 下の階からは女中(じょちゅう)の声が床を越して聞こえてくる。 (表には誰ひとり通りやしないね。 まあ、この雨じゃあ仕方ないって言ったら仕方ないけどさ) 客が入らないこんな日は、大抵の遊女は部屋へ籠り文を書く。 相手は誰でもいい。 また来て頂けるよう、金になりそうな客へ手紙を書く者も居れば、好きな男へ手紙を書く者もいる。 私は‥  誰に書こうか。 机の上に置かれた紙や筆は用意された時のまま。 好きでもない男に “好き”だの“逢いたい”など嘘を吐くのは床の上だけで十分。 だからと言って想い人も居ない。 「さて‥どうしようか」 .
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