‥―壱ノ章―‥

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  「‥おいで」 雲が割れ、月の明かりだけが静寂した夜道を照らしだす。 男は懐から笹に包んである握り飯を取り出し、それを半分に割った。 ニャー‥ 甘えた声で鳴く小さな命は男に擦り寄ってはご機嫌な声を出す。 男は半分に割ったそれを猫の前へと置いた。 「‥旨いか?」 ニャー その声に男は微笑んだ。 薄暗い辺りにボワッと光が宿る。 ‥―見廻り組か。 カチッ。と響いた刃の覗かせる音に、 猫は慌てて何処かへ逃げ出し、男は置き去りにされた塊を見つめた。 「おい!こんな時間に何を‥し‥」 途切れた声を追うように、辺りには血の雨が降り注ぐ。 .
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