‥―壱ノ章―‥

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  「ニャー」 格子の付いた小さな窓から見える世界。 そこは偽世界で、この部屋だけが私の現実。 それでも時々、偽世界へ手を伸ばしたくなる。 それは仕事が終わる時間や、仕事を待っている時間。 その度に私は窓の外を眺めては、ニャーと鳴いてこの辺りに住み着いている猫が顔を出すのを待った。 ニャオ‥ ‥―!!? 微かに聞こえた猫の声。 手を格子の隙間からぶらりと落とし、夜風を感じていた私の手は、格子を強く握り、隙間から猫の姿を覗き見た。 が、小さな窓からはその姿が確認できない。 もう一度鳴いてみると、先程よりも近くで猫の声が返ってきた。 私を、仲間だと思ってくれてるの‥? 私は嬉しくなって、何度も何度も鳴いてみせた。 ガサッ―‥。と物音がした。 窓の外で何かの気配を感じる。 猫がそこまで来ている? しかし、人間の姿が見えると近寄ってはこないだろう。 私は窓の下にしゃがみ込み隠れて鳴いた。 微かに聞こえた小石を蹴る音。 猫が窓の下に居る。 緩む顔と、焦る気持ちを抑えつつ、私はゆっくり窓の外を覗いた。 .
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