‥―壱ノ章―‥

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  「わっ!」 猫を驚かせる私の声と、逆に“猫”の姿を見て驚いた私の声が高く大きく響いた。 「…人 間‥」 猫の代わりに目の前に立って居たのは刀を腰にぶら下げた侍。 その侍は私に驚き、ククッと喉を鳴らして笑いだした。 フッ‥ それにつられて私も笑う。 あまりの可笑しさに涙が出てきて、それを着物の袖で拭ほど笑った。 ダ  ダ    ダ 「しっ」 足音‥ 廊下から足早に近づいてくる足音に笑うのを止めた。 それと同時に部屋の襖がスパーンと勢い良く開く。 「‥おや、 可笑しいね。 確かに笑い声が聞こえたんだけど…」 きらびやかな赤い着物を身に纏い、 漆黒の髪は綺麗に結われ、刺さった金色の簪(カンザシ)がゆらゆらと揺れる。 この店一番の売れっ子、百合花(ユリカ)だ。 彼女は私しか居ない部屋をまんべんなく見回し、眉をしかめる。 「外に誰かいるんじゃないでしょう、ね?」 .
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