‥―壱ノ章―‥

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  「‥いいえ、誰も」 一見華やかに思われる女郎屋も、実際は逃げ出す者が後をたたない。 その理由の多くは決して実らない色恋沙汰だった。 捕まれば地獄の様な仕置きが待っている。 ならば‥と、大半は心中をするのが現状。 窓の外に居る無関係な侍も見つかれば役人を呼ばれ拘束される。 もちろん、私にも仕置きが待っている。 外との繋がりを一切持たせてくれないのが此処の掟。 私は、 窓の下に居る侍が立ち去ってくれるのを祈りつつ、隠すように窓の前へ立ち塞がった。 「其処、退きなさい」 ドンッ――‥ 肩を強く押されよろめいたが、直ぐに体勢を立て直し窓の下を見る。 が、 ‥居ない。 足音も立てずに立ち去った侍。 百合花はフ~ンとつまらなさそうに鼻を鳴らし、 ゆらゆらと部屋を後にした。 .
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