160人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
「‥いいえ、誰も」
一見華やかに思われる女郎屋も、実際は逃げ出す者が後をたたない。
その理由の多くは決して実らない色恋沙汰だった。
捕まれば地獄の様な仕置きが待っている。
ならば‥と、大半は心中をするのが現状。
窓の外に居る無関係な侍も見つかれば役人を呼ばれ拘束される。
もちろん、私にも仕置きが待っている。
外との繋がりを一切持たせてくれないのが此処の掟。
私は、
窓の下に居る侍が立ち去ってくれるのを祈りつつ、隠すように窓の前へ立ち塞がった。
「其処、退きなさい」
ドンッ――‥
肩を強く押されよろめいたが、直ぐに体勢を立て直し窓の下を見る。
が、
‥居ない。
足音も立てずに立ち去った侍。
百合花はフ~ンとつまらなさそうに鼻を鳴らし、
ゆらゆらと部屋を後にした。
.
最初のコメントを投稿しよう!