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襖を閉める後ろ姿を見送り、
足音が遠くなるのを待ち、再び窓の外を格子越しに覗き見る。
辺りはいつも通り真っ暗で建物の間を風が通り抜けるだけ。
夜空を見上げれば満月とは言えないが、丸くて大きな月が雲に覆われては顔を出す。
「‥猫」
月の逆光ではっきりと顔は見えなかったが、先程の侍を思い出しそう口走る私が居た。
スー‥
静かに開いた襖に視線を送れば
「月乃(ツキノ)、指名だよ」
女将がそこに立ち、私を呼びに来ている。
「‥わかりました」
部屋を出る私に女将は
「何かいい事でもあったのかい?」と不思議そうに問う。
「何故ですか?」
「否、あんたが仕事の前に笑ってるなんて珍しいからね」
その言葉に思い出しては笑いが込み上げてくる。
「‥いいえ。
只、猫がね‥迷い猫が居たんです」
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