‥―弍ノ章―‥

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  月が天へ昇る時、 遊女達の仕事が始まる。 三味線や太鼓の音があちらこちらの部屋から鳴り響いた。 吉原遊郭では最高の位の遊女を花魁(おいらん)と呼ぶが、 吉原遊郭から離れた女郎屋では高級遊女は太夫(たゆう)と呼ばれた。 此処では売れれば売れるほどいい客が付き、いい処へ身請けされる。 姉遊女が口癖のように禿(カムロ)と呼ばれる子供達へ教え込む。 まだ十にも満たない幼い禿達は太夫を目指し、姉遊女を見習うために客の座敷へと赴く日々。 しかし、客によっては深夜まで宴の席が続く。 百合花が仕切る宴会の席で。 コクン‥ 座敷の隅で禿が居眠りをし、頭が前後に揺れはじめていた。 小さな子供であっても客に買われた身。 「たまき、炭をとっておいで」 百合花の目がこの禿に行き届く前に、 姉遊女の一葉(カズハ)は“目を覚ましなさい”と意味を込めて禿を廊下へ出した。 .
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