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ギシリ‥
ギシリ‥
歩く度に不気味な音を立てる廊下も、
此処へ売られて5年目の私の耳には、既に音色の一部になっていた。
その廊下を歩く私の眼に、
小さな中庭を眺め、佇む禿が映った。
それは絵から飛び出してきたかと思わせる程、風情に溢れている。
‥―あの子は確か‥、百合花の‥。
居眠りでもして追い出されたのかな?
私が近づいても気がついておらず
「たまき」
名前を呼ぶと虚ろな眼を擦りながら振り向いた。
「もう少しだからね」
早く戻りなさい。と言う意味の言葉を投げると、
コクリ。と頷く。
「‥いいこ」
小さな頭を撫でると、
まだ甘えたい年頃のせいか、私の袿(ウチカケ)をギュっと握りしめてきた。
「‥‥戻ろうか」
それ以上何も言えず、私は禿の小さな手を引き座敷へ返した。
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