南の都 ~異国の少年~

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サウスシティ。 東西南北の四つの都市の内、一番に魔法学が栄えている街。 私の家はその街の郊外にある。 「まったく……休みの日ぐらいゆっくりさせてよね……。」 家から歩いて30分弱。 そこに建っているお城がサウス魔法学校である。 「えーと……あ!先生!」 「ん?」 白いスゴい髭の老人。 この学校の教師だ。 たまたま廊下を歩いていたのを呼び止める。 「リディア?はて……今日は休みのハズでは?」 「いえ、ちょっと森に薬草を採りに行こうと。」 「ああ、薬草図鑑かね?」 「ええ、ちょっと借して欲しいんです。」 「構わんよ。ワシの机の上にあるから持って行きなさい。」 「ありがとうございます。」 老人に礼をし、図鑑を取りに行こうとした。 すると、先生が呼び止める。 「リディア。念の為に杖を持って行きなさい。」 「杖?大丈夫ですよ。森には弱い魔物しか棲んでませんし。」 先生はシワのような目をさらに細める。 何か言いたげな表情だ。 「魔物ではない。街の者が……あくまでも噂なんじゃが、‘ギア,を見かけたらしい。」 「ギア!?古代文明の遺物……究極の殺戮兵器……ですか?」 「何かの見間違いだとは思うのだが……。用心に越した事は無い。」 「でも……わざわざ家に取りに帰るのも……。」 「ワシの杖を貸そう。」 差し出されたのは、見るからに百戦錬磨の物凄い杖。 魔力が漲る……気がする。 「え!?ダメですよ!もし壊しちゃったら弁償できませんし!」 「ホッホッホ。もし壊しても弁償させたりはせんよ。」 杖を私に渡す。 そして、また廊下を歩いて行く先生。 「お前達の家庭状況は熟知しとる。遠慮するでない。」 「……ありがとうございます!」 深く礼をする。 そして、図鑑を取りに職員室へ走った。 「ふむ……。ワシの使い古した杖であれほど感激されるとは……。」 髭を触りながら見送り、ついついボソッと呟いてしまう先生であった。
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