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『神崎さん…道に迷ってしまいました…』
雪の降り積もったある朝、一本の電話で目が覚めた。
透き通る様な、耳に心地好い声。
声の主は、私が編集を担当している売れっ子漫画家の轟木圭吾(トドロキ ケイゴ)先生だ。
「また…ですか」
呆れて溜め息を吐き出すと、起き上がってベッド脇に置いてある棚に手を伸ばし、眼鏡を取って掛けた。
『…っ…』
受話器越しに戸惑っている先生の息遣いが聞こえる。
『…今朝、散歩に出たら急に雪が降ってきて…空から降りてくる雪があまりに綺麗だったから、ずっと空を見上げていたんです…そうしたらいつの間にか周りが真っ白に…』
「それで道がわからなくなった…と?」
『はい…まぁ、そうですね』
別に珍しい事ではなかった。
いつもフラッと出ていっては、道に迷っていたりして。
本当に困るとこうやって頼ってくる。
方向音痴ではない様なのに、時々おかしな事を言う人だ。
こんな事が度々続くと、流石にもう馴れてしまった。
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