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「……すみません」
コートの裾を引っ張って、悄気た顔で言われると、もう怒る気にはならなかった。
「もういいですから、早く体を暖めないと…」
頭や肩の雪を払い、適当に持ってきた自分の上着を先生に羽織らせた。
「助かりました」
コートを着せる手に、冷たい指先が重なってくる。
「こんなに冷えきって…」
冷たくなっている手を、ギュッと握りしめた。
「神崎さんの手、暖かいですね」
余程寒かったらしく、触れた暖かさに、ほっとした表情を見せる。
「…っ…」
体温を取り戻してきたのか、ほんのり赤くなった顔がやけに可愛く見えて、思わず視線を泳がせた。
「…走っていましたから熱くもなります。ほら、これも付けて下さい」
平静を装い、握った手を解放して、自分の首に巻いていたマフラーを先生に巻く。
「…知ってますか? 手が暖かい人は心がとても冷たい人なんですよ」
そう言うと、いつものからかう様な瞳が、こちらを見上げていた。
「熱いのは走ったからだと言ったでしょう…?」
「ふふ…そんなにムキにならなくても。…わかっていますよ、ちゃんと。」
クスクス笑うと、先生は歩き出した。
噛み合わない会話もいつもの事。
「先生、道はこっちです」
だからいつも、この人の気まぐれに振り回される。
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