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「いや、何でもない。何でもないんだ」
何が起きても変わらないなら
何をしても変えられないなら
どうせなら何かをしてみよう
幻聴ではない。決して聞き間違えないこの声。
「ねぇ」
背後からの声に聞き覚えがあった。これまた何とも懐かしい声だった。あの日以来聞くことが叶わなくなった声。慌てて振り返る。そこにはかつての親友の姿がうっすらと浮かんでいた。これはどう考えても幻だ。あいつはもう死んだんだから。おそらく彼女がつれてきた幻覚なんだ。
「終わったんじゃないの。ただあなたのそばから離れていただけ。それがまたそばに来ただけのこと。あなたの番が来たってことなのよ」
彼女は心配そうに俺を見ている。いのりと同じ目をして。
「お前が、お前が終わらせたんじゃなかったのか?!」
俺の声にいのりは周りの目を気にしている。周りの客は冷ややかな態度で俺を無視していた。かつての親友は俺の疑問により深い同情を目に宿したかと思うと、そのまますっと姿を消した。
「答えてくれよ、美冬…」 俺はうなだれかけたが、すぐに気をもたせておもむろに携帯を取り出すと、立ち上がった。あいつに連絡するのは三年ぶりだ。今でも同じ番号だろうか。
「何?ちょっと、どういうこと?」
いのりはわけもわからずに怪訝な顔をしている。
「行かなきゃ」
そう、その時俺は進むべき道を見失ったんだ。
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