3.過去は助けか、過ちか

4/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
「いや、何でもない。何でもないんだ」 何が起きても変わらないなら 何をしても変えられないなら どうせなら何かをしてみよう 幻聴ではない。決して聞き間違えないこの声。 「ねぇ」 背後からの声に聞き覚えがあった。これまた何とも懐かしい声だった。あの日以来聞くことが叶わなくなった声。慌てて振り返る。そこにはかつての親友の姿がうっすらと浮かんでいた。これはどう考えても幻だ。あいつはもう死んだんだから。おそらく彼女がつれてきた幻覚なんだ。 「終わったんじゃないの。ただあなたのそばから離れていただけ。それがまたそばに来ただけのこと。あなたの番が来たってことなのよ」 彼女は心配そうに俺を見ている。いのりと同じ目をして。 「お前が、お前が終わらせたんじゃなかったのか?!」 俺の声にいのりは周りの目を気にしている。周りの客は冷ややかな態度で俺を無視していた。かつての親友は俺の疑問により深い同情を目に宿したかと思うと、そのまますっと姿を消した。 「答えてくれよ、美冬…」 俺はうなだれかけたが、すぐに気をもたせておもむろに携帯を取り出すと、立ち上がった。あいつに連絡するのは三年ぶりだ。今でも同じ番号だろうか。 「何?ちょっと、どういうこと?」  いのりはわけもわからずに怪訝な顔をしている。 「行かなきゃ」 そう、その時俺は進むべき道を見失ったんだ。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!