4.冷めたひまわり

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目を冷ますと知らない天井が視界を覆っていた。微かにお香の匂いが鼻につく。すぐ近くでは会話も聞こえる。背中に当たる感触が痛い。身体の横に真っ直ぐ伸ばされた手で下を触ってみると、そこにはフローリングがあると解る。どうやら私は床に雑魚寝をしていて、辛うじて薄い毛布を羽織っているだけのようだ。その毛布の毛並みが悪いのか、触れている肌がチクチクして不快だ。身体の全感覚はかなり覚醒しているのに身体がまるで動かない。これが金縛りってやつなのだろうか。 私はどうなったんだろう。あの時、駅前で倒れた記憶しかない。飲んでいたお店での記憶なんて皆無だ。何か長い夢のようなものを見ていた気がする。でも思い出そうとしてもそれは頑なに出てこなかった。 「全く…。迷惑なんだよ。もう私はあんたのサークルとは関係ないんだぞ?」 聞き慣れない声だ。迷惑だという気持ちを隠そうともしない怪訝そうな声。 「仕方なかったんですよ。俺達の代で大学の近くに住んでるの千秋さんだけだったし」 鳴海の声だった。しかし私の知る鳴海はこんな声だっただろうか。 「それに千秋さんに会わせた方がいいと思ったんです」 私は起き上がりたかったが全く身体に力が入らない。頭上からする女の顔がまるで目に入らない。 「…どうして?」 女が吐いた煙草の煙が上の方から私の視界に流れ込んで来た。 「あの…お話中いいですか?」 のぞみの声だ。帰らないでいてくれたんだ。知らない声に挟まれていた私は、側からする親しい声に温かいものを感じた。 温かいこれもほって置いたらいつかは冷めてしまう気がした だから温め続けようと必死にもがいた そしたらもっと早く冷めてしまったの  え?…今のは誰の声? 突然私の身体は小刻みに震え始めた。寒い。気温的なものではなく、不安や孤独から来る寒気。 「亜希!」 のぞみが私の身体を掴んで私を覗き込む。その顔は心配で泣きそうだった。続いて鳴海の顔が見える。こちらも多少は心配の色を見せているが、どちらかと言えば恐怖を感じているように顔は強張っていて目は私を見ないで伏し目がちだ。何をそんなに恐れているんだろう。
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