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墜ちていく、彼女が。
底の見えない闇の中に、見せつけるように、ゆっくりと。
もう……届かないと知っていた。それでも必死に手を伸ばす。
ーー離れたくなかったから。傍にいたかったから。
身を乗り出して、限界を超えて彼女を掴もうとして、……でも、どうしても届かなくて。
腕の先で、彼女はーー笑っていた。
ーー心配しないでと、安心させるように。
その時初めて浮かべた優しい笑みが後悔と共に、胸に染みる。
相手を安心させる為だと、すぐに分かった。
ーー……ッ!
叫びたかったが、何故か声が出ない。彼女の笑みが、遠ざかっていく。
繋ぎ止めたくて、手放したくなくて、だが何もかも遅すぎて。
もう無理なんだと、どこか諦めている自分に気付いて、そんな自分を殺してやりたくなった。
暗すぎる闇が彼女の身体を溶かすように呑み込んで、見えなくなって、伸ばした手を握り締めた。
溢れる涙が、止まらなかった。
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