旅立ちは突然に

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 ずっと前に父さんから聞いた話によると、 彼の少年時代に住んでいた家の近所に変な住人がいたんだって。 近くに住んでいるのにめったに顔を合わすことがない。 会った時に挨拶をしても、会釈もせずに 家の中に入っていっちゃうような女性が。  当時の父さんはわんぱくで好奇心が旺盛な小学生。 ある日誘惑に負けて、さも興味の対象物にしてください とでも言わんばかりに怪しいその人の家の中を覗いた。 そんな彼の目に映ったのは、彼女が見たことがない女の子と 猫じゃらしで遊んでいるという異様な光景だった。  驚いた少年はその日の夜、彼の両親にその話をした。 当然のことながら、最初はその話に 2人とも耳を傾けてくれなかったらしい。 普通、女の子が猫のように扱われているなんて話をしたって 信じられないもんね。 「嘘をつくんじゃない」とか「そんな子に育てた覚えはない」 って怒鳴られて、それでも必死に訴えてくる彼らの息子。 ついに根負けして、次の日にお祖父ちゃんが 様子を見に行く約束を。 ・・・この約束がなかったら、私は今ここにいなかっただろうね。 翌朝、少女は無事に保護され施設に引き取られた。 だけど、その後も何かと父さんがちょくちょくと会いに行き ・・・今に至る。  彼女の口癖はその頃の胸に抱いていた 「いつか母さんが使っているような言葉を私も使ってみたい」 という願いが、今になってこんな形になったみたい。  え?母さんの口癖の原因はわかったから、 その途中で出てきた私の母方のお祖母さんは その後どうなったのかですって? う~ん・・・その現場にいた母さんが言うには、 お祖父ちゃんが踏み込んだ時に彼女を残して 窓から脱出したんだって。 それっきりお祖母さんを見た人は、 少なくとも私が知っている人達の中にはいないの。 生きてたら・・・少なくとも55歳は過ぎていると思う。
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