旅立ちは突然に

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 だからといって、家に戻る気にはなれなかった。 こんな状況に陥れた張本人と顔を突き合わせることになるから。 そうなったら、いくらなんでも平静を装っていられる自信がない。 私を宥められる人間って言ったら、父さんか弟達くらいだし。 でも、もう彼らも家を出ている頃だ……それに、幼い妹の菜々に恐怖心を植えつけたくはない。 (仕方ない、どうせ遅れるならここで待っていよう。)  と思いつつ、ただボーゼンと30分が過ぎた・・・。 (うぅ、これというのも母さんが あんなことを頼んできたから・・・。)  あれからすぐに反対側のホームも電車が来て、 そこにいた人達を飲みこんでいった。 今、この駅にいるのはたった一人の駅員さんと私くらいなもの。 その駅員さんも他の仕事をするため、 電車を見送ると駅員室へと入っていった。 だから私は文字通り、1人取り残されていた。  遅刻するつもりなんかサラサラなかったから、 暇を潰すための道具なんて持ってきていない (教科書は持っているけど、それは論外。)。 何より元来私は飽きっぽいうえにカリカリしやすい。 ただボーッとしているうちに、私は自然と・・・クサっていた。  そうしているところへ突然、 ホーム内に電車が来るチャイムが鳴り響く。 驚いて時計と時刻表を確認しても、 この時間には来ないことになっていた。 (次のが来るまで、あと30分くらいあるはずなんだけど・・・。 まぁ、いいや。なんにしても遅刻せずに済むのはありがたいもん。)  学校最強の生活指導・川野ミヨ(65歳・現役状態)に 注意されている自分の姿を想像して、身震いを1つ。 そこへ電車がホームの中へ入ってきて・・・思わず後ずさりした。  だって……その電車、車体のデザインが普通じゃなかったんだもん。 1つの車両に2種類以上の動物柄が入っててさ。 具体的に言うとキリンとニシキヘビとか、 パンダとシマウマとシロクマとか、 ネズミとコアラとイノシシとシカとか!  普通の人だったら乗るのをためらいそうだけど、 私にとっては天の助け。 (どこまでも悪趣味なデザインはともかく、 これに乗ればなんとか間に合うかも。 もし途中で乗り換えることになっても、 乗らないよりはマシでしょう。)  安易にそんなことを思いつつ、私は意気揚々とそれに乗り込んだ。 この後、どんなことが待ち受けているかも知らずに・・・。
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