物語のはじまり

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物語のはじまり

ここは、東京の都心から少しはずれのとある街。 役所が掲げるキャッチコピーは『ビルと緑が似合う街』 そんな街の一角に立つ雑居ビルの三階に、この物語の主人公はいる。 佐伯 亮太(さえき りょうた)15歳、中3。 只今憂鬱な受験生の真っ只中。 本日も塾のお決まりの席に収まって過去問と、にらめっこしている。 苦悶に寄せられた眉間のしわが、この頃目に見えて濃くなってきた。 朝から晩まで勉強漬けの受験生の悩みはつきない。 専らの悩みはこれ……。 塾の帰りに、昨日のテストが採点され返ってきた。 心無しか、亮太の眉間にシワがまたひとつ増えている。 雑居ビルの狭い階段を下って、心も体も薄ら寒い夜道を家に向かいトボトボ一人歩いていくその手には、65点と書かれた答案用紙。 『また……平均点。』 ぼやいた言葉が溜め息と一緒に闇に消える。 佐伯 亮太はそんな極普通な男の子だった。 個別指導塾に行くほどのお金の余裕はなく、でも塾には通える普通家庭に生まれた、長男坊(一人っ子)。 特に成績が良いわけでもなく、特にルックスが良いわけでもなく、特にイケてる系でも地味系でもない。 彼を何か分類にわけろと言われたら、間違いなく『普通』と分類される。 せめて名前くらい特徴があれば印象的というものだが、佐伯なんて名字など10年後同窓会にでたら、名前が出てこないけどそういえば居た居た!! えっと……佐々木?いや違うな、佐藤だっけ?なんかもっと長くて……『さ』から始まったような……いや、鈴木?誰だっけ?みたいな感じで、結局わからないからという事で名前を口に出さずに当たり障りなくやり過ごそう!!と決断されるような名前だ。 まぁ、兎にも角にも佐伯 亮太は普通すぎるほど普通な、特に彩りもなければ変化もない毎日にどっぷり浸かって生きている、一善良都民に他ならなかった。 『わぁあぁああ!!』 この日、もう一人の主人公に出会うまでは……――――――――――
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