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空は蒼く、彼方まで透き通るように高く澄んでいた。
風はほとんどなく、木々の葉は緑を色強く残し僕を見下ろす。
切ったばかりの前髪が流れ、心地よく額に触れる。
都会の中心から一駅の住宅街。
僕は今日もまた彼女の家にいた。
色褪せたフローリングに反射する光が、僕らの姿を映し出す。
「今日は随分と天気がいいね。蒼く澄んでいて綺麗だ」
僕はそんな言葉を彼女にかけた。
赤い髪の画家は、イーゼルからわずかに視線を外すと、窓の外に掛けてある世界を見上げる。
――空は晴れている。
透き通るような薄い雲は、ゆっくりと形を変えながら浮かび、音楽でも奏でるかのように南から北へと流れていた。
そんな昼過ぎの時間は、僕が思っているよりも深く、心を落ち着かせる。
「ツカサ」
彼女はいう。
「空は青や紫、幾つもの色が混ざって構成されているのよ?それを澄んでいるなんて表現、おかしいじゃない」
彼女はそんな冷静な言葉で空を綴ると、再びイーゼルの上にあるキャンバスへと視線を注いだ。
すらっと真っ直ぐに伸びた赤い髪が、日の光を浴びて明るく輝き僕の目と心に深く残る。
彼女なら一体、どうやってこの色をキャンバスの上に表現するのだろう?
そう思っておかしくなった。
「そっか……でもさ、カヲル。それでも僕たち人間は空を青といい、雲を白という。それは、そんなにおかしいことじゃないだろ?」
なんて着飾った言葉を返す。
カヲルはキャンバスに細い筆を走らせながら、その言葉を背中で受け止めていた。
「まったく、アナタは…」
だから、こういう。
「でも、本当に綺麗なアオ。こんな日も決して、悪くはないわ」
……私は、そう思う。
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