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赤い髪が揺れ、僕に語りかける。
色彩とはこんなにも情緒的で、鮮やかという形容を使わせるのだと、そう感じる。
彼女の机の上に置かれたノートパソコン。
画面は白く、何も描かれていない。
投影されている光は淡く、無機質な色。彼女は白いキャンバスの上に絵を描くが、僕は違う。
僕は、この白い画面の上で様々な物語を書く。
「ねぇ?」
キーボードへと手を伸ばそうとする矢先、彼女が言った。
「なんで私が絵を描くか知ってる?」
その言葉に僕の思考が止まる。
彼女の一言で、書こうとしていた物語など何処か遠くへと飛んでいってしまう。
頭の中はそのカヲルの質問で埋まっていった。
「何故…描くのか、か……」
彼女の言葉は心地よく僕の思考を乱す。
心という形のないものを、彼女はその絵でありありと描く。
そんな彼女の心を表現する言葉を、僕はまだ持っていない。
それを探すのが、今の僕のテーマなのかもしれない。
キャンバスの前にいる彼女は、まるで描かれたように鮮やかで止まって見えた。
それを見て僕は思う。
「絵が好きだから?それとも絵を描くのが好きだから?」
自然と言葉が口から放れる。
意思とは関係ないような、思考そのもの。
それはなんだか不思議で、部屋の中に溶け込むような錯覚さえ生んだ。
「違うわ」
カヲルのそんな一言が、部屋の空気を現実へと引き戻す。
「確かに昔はそれだけだったかもしれない。でも、今は違うの」
そういって筆をキャンバスの上に軽く走らせる。
そこには新緑のように優しく、それでいて力強い緑が置かれていった。
「これはパーマネントグリーンという色。これをただキャンバスの上に置いていくだけなら誰にでもできることでしょう?でも、その色の置く順番、筆遣いや流れ、使う色彩は一人一人違う。描ききる時間でさえもそれは様々……」
彼女はそういうと、手に持っていた筆を……何かの生命みたいに動かしていった。
「私はね、そういった人たちの時間を留めてくれる、このキャンバスが好きなの」
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