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――太陽から零れ落ちる囁きを、きっと人は陽だまりと言うのだろう。
空は蒼、色彩は淡く、意識だけがはっきりとその色を瞳に映した。
僕はゆっくりと静謐(せいひつ)なタイピングで、叙情に叙事を重ねた言葉を綴り、窓の外のそんな景色を見つめる。
部屋の中は自分の好きな音楽で満ちていて、斜陽として差し込む光が温かく僕を包んだ。
トゥルルルルル、トゥルルルルル……
パソコンの横に置いておいた白い携帯電話が、代わり映えのしない音を響かせながら振動した。
微かに移動しながらそれは、小さな液晶に彼女の名前を映し出す。
「ふぅ……」
僕は溜め息を一つすると、腕を伸ばし携帯を取った。
手のひらに伝わる振動に、程よい心地よさと僅かな不快感を覚えながら通話ボタンを押す。
「はい、もしもし」
相手の名前を分かっているのにそんな言葉を使う自分。
電話の向こうの彼女はそんなことに疑問すら持たず、言葉だけを簡素に吐いた。
「ツカサ、今は暇?」
そんな短い言葉。けれどそれだけで十分伝わる。
――彼女は話し相手が欲しいのだろう。
僕はそう感じ取るや否や、書き途中の文章をパソコン内に保存して椅子から立ち上がった。
「ああ、暇だよ。カヲルの方こそ、どうしたのさ」
「ん、まあ……ちょっと、ね。ただ、話し相手が欲しかっただけよ」
予想通りの彼女の答え。
こんな少しのことでも、彼女の心を理解できた気がして嬉しくなる。
僕は微笑むようにして受話器を握りなおすと、窓の側に歩み寄った。
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