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この気持ちを、どう伝えたらいいのだろう。彼女は惑う。
東京は流行に溢れていて、交通の弁もいい。冬でもからっと晴れた日が多いし、ブーツを履ける。
東北は流行から遠くて、交通の弁が悪いところもある。雪が積もるし、寒いため、東京のような服を着ることはできない。ブーツもヒールのないものか、スノースパイクつき。
けれど。
「渡部くんがお節介焼きだから、ここに住む」
振り向くと、渡部は虚を衝かれた顔をして、それから笑った。
「何だ、それ」
「雪割草がどんな花か、見せてくれるんでしょ?」
渡部は頷いて、ハンドルを左に切った。徐行運転によるドライブは、間もなく終わる。
「それに……」
「それに?」
聞かれて、彼女ははにかんだ。照れ臭いような、恥ずかしいような、複雑な気持ちだった。
「それに、あたしも、誰かにお節介焼きたくなった」
車がスピードを緩めていく。
「あったかい気持ちになれるお節介を、ね」
渡部が笑った。彼女も笑った。
車は、彼女の自宅前で停まった。
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