肉まん、と

6/6
前へ
/18ページ
次へ
 泣き出しそうな瑞希の横顔に、彼は動揺を覚えた。慌てて、机にティッシュがないかと探し回る。  ぷっ、と吹き出したのは、彼女だった。泣きそうな顔で笑っている。  探す手を止めて、彼は姿勢を正した。 「ここの人たちはなぁ」  瑞希のくすくす笑いに重ねて、彼は口を開く。頬杖をついて、楽な姿勢になって。 「雪の下で暮らすから、お互いの大変さをわかっていんのさ」  言って、彼は視線を瑞希に向けた。 「お節介は焼いて損はねぇべ、迷惑なこともあっけどよ」  視線の先で、瑞希は頷く。 「転びそうになったとき、知らないおじさんが助けてくれたの。転びにくい歩き方も教わった」 「迷惑だったべ」  喜色を含んだ声をからかうと、瑞希はためらいがちに、首を振った。 「だから、ここまで歩いてこられた」  そのとき、机上のパソコンから電子音がした。呼び出し音だ。防犯カメラの映像を確認すると、レジの前に列ができている。 「待たせて悪いな」  椅子から立ち上がり、制服を羽織りながら彼が言うと、瑞希は意地悪そうに笑う。 「お母さんには電話してある。次は、おでん奢ってね」 .
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加