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泣き出しそうな瑞希の横顔に、彼は動揺を覚えた。慌てて、机にティッシュがないかと探し回る。
ぷっ、と吹き出したのは、彼女だった。泣きそうな顔で笑っている。
探す手を止めて、彼は姿勢を正した。
「ここの人たちはなぁ」
瑞希のくすくす笑いに重ねて、彼は口を開く。頬杖をついて、楽な姿勢になって。
「雪の下で暮らすから、お互いの大変さをわかっていんのさ」
言って、彼は視線を瑞希に向けた。
「お節介は焼いて損はねぇべ、迷惑なこともあっけどよ」
視線の先で、瑞希は頷く。
「転びそうになったとき、知らないおじさんが助けてくれたの。転びにくい歩き方も教わった」
「迷惑だったべ」
喜色を含んだ声をからかうと、瑞希はためらいがちに、首を振った。
「だから、ここまで歩いてこられた」
そのとき、机上のパソコンから電子音がした。呼び出し音だ。防犯カメラの映像を確認すると、レジの前に列ができている。
「待たせて悪いな」
椅子から立ち上がり、制服を羽織りながら彼が言うと、瑞希は意地悪そうに笑う。
「お母さんには電話してある。次は、おでん奢ってね」
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