序 北上

2/3
前へ
/18ページ
次へ
 大学の休みは昼からシフトに入る。田舎のコンビニは、平日ともなれば、暇を持て余してしまう。  午後四時を回って、寒さに頬を赤くした学生が、ぱらぱらと目立ち始めた。学校が終わり、下校の頃合いである。  彼女も、その中の一人だった。地元の高校生より華やかさのある少女で、いつも四時過ぎに、ひとりでやって来る。  コートを着た背中が雑誌棚で止まるのを、彼はレジから視認した。彼がシフトに入っている日の慣例だった。  その少女は、今春、東京から東北にやって来た。聞けば、彼女の母がこちらの出身で、彼の母とは旧友らしい。そんな縁もあり、彼は彼女のことを、よろしく頼まれていたのである。  東京の華やかさや利便性と比べれば、東北の片田舎など、つまらない場所に違いない。友人もできた様子なのに、その少女は未だに、どこか頑なな印象だった。 「あーざっしたぁ」  会計を済ませた学生がレジを離れる。感謝など微塵も感じられない気だるい声で言って、彼はちらりと、雑誌棚を見やった。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加