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翌日の朝、図書室に行くと、いつも座っている席に一冊の本が置かれていた。
放課後は図書委員が片付けるので、本が出しっ放しになっている事はあまり無い。私は不思議に思いながらも席に座り、何となくその本を読んだ。
読み初めてすぐ、また耳元で「うふふ」と聞こえた。当然ながら、周囲には誰もいなかった。私は少し怖くなり、読書を中断して早めに教室へ戻った。
小学校二年生の私は、一晩寝れば昨日の事を忘れるというニワトリのような脳の持ち主だった。だから忘れ物の多い子だったが、「うふふ」の事もすっかり忘れてしまい、やはり朝から図書室に出向いた。
すると、また本が置かれていた。同じ本である。そこでようやく昨日の事を思い出したのだが、実験の意味も兼ねてまたそれを読んだ。今度は「うふふ」は聞こえなかった。
ところが、そういう事は続いた。毎日のように本が用意されているのだ。それは絵本だったり、ズッコケ三人組シリーズだったり、ファンタジー小説だったりした。私は不思議だと思いつつも、とりあえず読んでいた。長い本は読みかけで教室に戻ったりもしたが、翌朝になると、丁度読みかけたページで開かれて置かれているようになった。読む最中、背後から視線のようなものを感じる事もあった。
これは「うふふ」の主だ。
私はそう思った。「うふふ」をやってしまうと私が逃げるから、黙っている方向性に決めたのだろう。ただ、本を置いておく事は続行したのだ。
ああ、読んで欲しいんだ。
私はそう解釈し、姿無きそれに勧められるまま、置いてある本を毎朝読んだ。
三年生にあがると、私の図書室通いは激減した。友達と喋ったり遊んだりする楽しさに目覚めたのだ。
次第に朝も図書室に行かなくなり、昼休みも行かなくなり、放課後はさっさと帰宅して遊ぶようになった。
それでも、「うふふ」の事は忘れていなかった。朝から図書室に行かなくなってだいぶ経った頃、私は「まだ置いてあるかな」と久々に朝から図書室へ行った。
席はどこも綺麗に片付いていて、出してある本は見当たらなかった。
それから度々朝に図書室へ行ったが、本が用意される事は二度と無かった。
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