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ダッチマン号の船首と船尾から白い閃光が瞬き、その重たい船体を徐々に横へと押しつけ始める。それはじれったく、まるでやる気の無いような滑り出しであったが、姿勢制御用の噴射に急激な加速度を期待出来るわけがなかった。
《間に合わないぞセルゲイ………接触まで5、6メートルしかない!》
「離脱加速まであと10秒、なんとかなる!」
「メリック、お前の予測は何だ?もしかしたら私の予測と同じかもしれんな」
「だとしたらダッチマン号に被害がでるかもな船長………突拍子もない仮定なんだがね」
「電磁気力以外に引力を説明出来るのはアレしかない」
「そう、重力だ」
《うわあ、かすめてる!かすめてる!》
「ようし、離脱を始めた………メリック、僕にもわかるように『マニア』な説明をしてくれよ」
額に噴き出た冷や汗を拭いながら、セルゲイはメリックに振り返った。メリックは逆さまのセルゲイをニヤニヤ見つめて話はじめる。
「信じられないがな、あの鏡は縮退物質なのさ。それでレーダー波が帰って来ないほどツルツルピカピカなのも納得だ………つまり極端に原子密度が高いわけさ」
ぎりぎりで接触を回避したダッチマン号は今度は船体下面から制御噴射を行って、漂流物との位相ベクトルをずらす作業に取り掛かった。
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