3⃣

2/6
46人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
春が過ぎ、夏になり、 そして、秋がやってきた。 私たちの共同生活は ごく自然なサイクルに落ち着き 私も 西岡佳奈という名前に 馴染んできた。 付き合いはじめてからも きょうだいになってからも 半年が過ぎ 私と裕也にとって スリルはもはや スリルでなくなっていった。 私たちは 自分たちが暮らしているのが 脆く、崩れやすい 硝子の鳥籠だということを いつのまにか 忘れてしまった。 私たちは大胆になった。 いや、むしろ 刺激を求めて 挑発するようなふるまいを するようになった。 殊更に親密さをみせつけたり 長すぎるほどに見つめ合ったり お互いの部屋に出入りしたり わずかな隙に愛をささやいたり。 それでも 何もおこらない自信があった。 家のなかには 私たちのふるまいに 注意を向ける人など いなかったから。 実際に 親たちに 気付いた様子はなかった。 そのことは 私たちにとって むしろ ものたりないくらいだった。 わずかばかりの疑惑は 私たちの恋の 甘美なスパイスに なるはずだったから。 でも あんな偶然は望んでなかった。 あんな暴力的な偶然は。 ただ一度だったのに すべてが壊れてしまった。 信頼も  愛情も   関係も    過去も     未来も 何もかも はじめから なかったことになってしまった。 この世に神様がいるとしたら なんて残酷な人だろう。 どうして 私たちだったのだろう。 もっとどうしようもない人は いくらでもいたはずなのに それなのに 私たちが選ばれて こんなに苦しまなくては ならないなんて。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!